日大工 総合教育 樋口幸治郎
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工科系数学I及び演習 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
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Les gens sont généralement mieux convaincus par les raisons qu’ils ont eux-mêmes découvert que par ceux qui sont venus pour l’esprit des autres.
人は, 他人よりも自分自身で見出した理屈によって納得するものだ.
---Pensées Braise Pascal
「パンセ(思想)」より, ブレーズ・パスカル
度数法と弧度法と一般角, 三角関数について学ぶ. (教科書範囲外)
一回転を360$^\circ$として定まる単位「度(degree)」を用いて角度を表す方法を度数法という.
弧度法は弧の長さで角度を表す方法である. 単位円(=半径が1の円)について, 角に対して定まる弧の長さ$\theta$をその角の角度とし, 角度$\theta$ ラジアン(radian)と呼ぶ. 定義から一回転は$2\pi$ラジアンである.
表記としては普通単位「ラジアン」は省略して書く. だから, 角度について考えているとき, 例えば, 「$\pi$」と書けばこれは「$\pi$ラジアン」を意味する.
$1$ラジアン $\fallingdotseq$ 57.29578$^\circ$
例
$2\pi$ラジアン $=$ 360$^\circ$ (一周の角度)
$\pi$ラジアン $=$ 180$^\circ$ (直線の角度)
$\dfrac{1}{2}\pi$ラジアン $=$ 90$^\circ$ (直角)
$\dfrac{1}{3}\pi$ラジアン $=$ 60$^\circ$
$\dfrac{1}{4}\pi$ラジアン $=$ 45$^\circ$
$\dfrac{1}{6}\pi$ラジアン $=$ 30$^\circ$
$0$ラジアン $=$ 0$^\circ$
注意 微分学においては, 度数法よりも弧度法を用いる方が自然である. 例えば, 後に学ぶ微分の公式$$(\sin x)^\prime=\cos x$$は弧度法での公式だが, 度数法を用いると$$(\sin x^\circ)^\prime=\dfrac{2\pi}{360}\cos x^\circ$$となり計算が複雑になる.
定理 半径$r$の円を角度$\theta$ ($0\le \theta\le 2\pi$)で切った扇の弧長は$\theta r$である.
証明 弧長$=$(一周の長さ)$\times$($\theta$と一回転との比)$=2\pi r\times\dfrac{\theta}{2\pi}=r\theta$
この定理から, 同じ角度の二つの扇について, (半径の比)=(弧長の比)がわかる.
定理 半径$r$の円を角度$\theta$ ($0\le \theta\le 2\pi$)で切った扇の面積は$\dfrac{1}{2}\theta r^2=\dfrac{1}{2}(\theta r)r$である.
証明 面積$=$(円の面積)$\times$($\theta$と一回転との比)$=\pi r^2\times\dfrac{\theta}{2\pi}=\dfrac{1}{2}r^2\theta$
定理の面積の式は, 三角形の面積「(底辺)$\times$(高さ)$/$2」と同じ形とみることができる.
角度を線分の回転量(反時計回りを正とする)として考えることで, $2\pi$より大きい角度や負の角度を考えることができるようになる. このような角度を一般角という.
例
$3\pi$ラジアン $=$ 540$^\circ$
$5\pi$ラジアン $=$ 900$^\circ$
$-\pi$ラジアン $=$ -180$^\circ$
$-\dfrac{1}{2}\pi$ラジアン $=$ -90$^\circ$
$-\dfrac{1}{6}\pi$ラジアン $=$ -30$^\circ$
$-\dfrac{7}{3}\pi$ラジアン $=$ -420$^\circ$
座標平面での原点Oを中心とする単位円と円周上の点Pについて, $x$軸の正の方向の半直線とOPのなす角度が$\theta$であるとする. このとき, 点Pのx座標を$\theta$の余弦(cosine), y座標を$\theta$の正弦(sine)といい, それぞれ $$\cos\theta,\qquad\sin\theta$$ で表す. また, OPの傾き$\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}$を正接(tangent)といい, $$\tan\theta$$ と書く.
角度$\theta$を独立変数として定まる関数$\sin\theta,\cos\theta,\tan\theta$を 三角関数という.
三平方の定理から次が得られる.
定理
$\cos^2x+\sin^2x=1$
ここで, $\cos^2 x$や$\sin^2 x$は, それぞれ$\cos x,\sin x$の2乗を表す. 一般に, $\sin\theta,\cos\theta,\tan\theta$の$n$乗を, $$\sin^n\theta,\quad\cos^n\theta,\quad\tan^n\theta$$ と書く.
先の公式の両辺を$\cos^2 x$で割れば次が得られる.
系
$1+\tan^2x=\dfrac{1}{\cos^2x}$
注意
$\theta$が鋭角のときは, $\theta$を一つの角とする直角三角形の辺の長さの比としても,
三角関数を定義することができる.
例
$\sin\dfrac{\pi}{4}=\sin 45^\circ=\dfrac{1}{2}$,
$\cos\dfrac{\pi}{6}=\cos 30^\circ=\dfrac{\sqrt{3}}{2}$,
$\tan-\dfrac{\pi}{3}=\tan -60^\circ=-\sqrt{3}$などが成立する.
$\theta=$ | $\ \ 0\ \ $ | $\dfrac{\pi}{6}$ | $\dfrac{\pi}{4}$ | $\dfrac{\pi}{3}$ | $\dfrac{\pi}{2}$ |
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$\sin\theta$ | $0$ | $\dfrac{1}{2}$ | $\dfrac{1}{\sqrt{2}}$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $1$ |
$\cos\theta$ | $1$ | $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ | $\dfrac{1}{\sqrt{2}}$ | $\dfrac{1}{2}$ | $0$ |
$\tan\theta$ | $0$ | $\dfrac{1}{\sqrt{3}}$ | $1$ | $\sqrt{3}$ | 値なし |
三角関数のグラフについて学ぶ. また, 加法定理など三角関数の公式を学ぶ(教科書範囲外).
$\sin x,\cos x$は$2\pi$の周期を持つ. つまり, $$\sin(x\pm 2\pi)=\sin x,\qquad \cos(x\pm 2\pi)=\cos x$$ である. これは角度$x$, $x\pm 2\pi$の定める単位円周上の点Pは一致するからである.
$\tan x$の周期を持つ. つまり, $$\tan(x\pm\pi)=\tan x$$ である. これは角度$x$と$x\pm\pi$の定める単位円周上の点P,Qは原点Oに対称な位置にあるので, 傾き(=正接)は一致するからである.
角度$x,-x$を持つ単位円周上の点$P,Q$の座標を考えれば次が得られる.
定理
$\cos(-x)=\cos x,\qquad \sin(-x)=-\sin x,\qquad \tan(-x)=-\tan x$
定理
$\cos(x+y)=\cos x\cos y-\sin x\sin y,\qquad \sin(x+y)=\sin x\cos y+\cos x\sin y$
複素数を使えば, これらをまとめて
$$\cos(x+y)+i\sin(x+y)=(\cos x+i\sin x)(\cos y+i\sin y)$$
と書くこともできる.
証明 図のように, 角度$x+y$の単位円周上の点を$P$とおく. このとき$P$の座標は $$P(\cos(x+y),\sin(x+y))\tag{1}$$である. 直交座標を角度$y$だけずらした新しい座標を考えると, この座標では$P$の座標は$(\cos x,\sin x)$である. 新しい座標系での$x$軸上の$\cos x$が表す点は, 元々の座標系では $$(\cos x\cos y,\cos x\sin y)\tag{2}$$ という座標を持つ. また, 新しい座標系での$y$軸上の$\sin x$が表す点は, 元々の座標系では $$(-\sin x\sin y,\sin x\cos y)\tag{3}$$ という座標を持つ. 従って, 点$P$の座標は, (2),(3)のx座標とy座標をそれぞれ足しあわせて $$P(\cos x\cos y-\sin x\sin y,\sin x\cos y+\cos x\sin y)$$ と表すこともできる. これと(1)を比較すれば, 加法定理の公式が得られる.
三角関数についての色々な公式を学ぶ(教科書範囲外).
定理 $e^{i x}=\cos x+i\sin x\quad$(オイラーの公式)
オイラーの公式は色々な公式を思い出すことに非常に役立つ.
例 $$\begin{align} &\cos(-x)+i\sin(-x) \underset{オイラーの公式}{=}e^{i(-x)} =\dfrac{1}{e^{ix}} \underset{オイラーの公式}{=}\dfrac{1}{\cos x+i\sin x}\\ =&\dfrac{\cos x-i\sin x}{(\cos x+i\sin x)(\cos x-i\sin x)} =\dfrac{\cos x-i\sin x}{\cos^2 x+\sin^2 x} =\cos x-i\sin x \end{align}$$
オイラーの公式の成立は, 指数関数$e^x$と三角関数$\sin x,\cos x$の冪級数展開を用いて説明することができる. 複素数の指数法則や, 複素数上の関数の性質は, この講義では証明しないが, 実は実数と同様の性質が成り立つという事実がある.
定理 $$\begin{align} \cos(x\pm y)+i\sin(x\pm y)&=(\cos x+i\sin x)(\cos y\pm i\sin y)\\ &=(\cos x\cos y\mp\sin x\sin y)+i(\sin x\cos y\pm\cos x\sin y) \end{align}$$ また, $$\tan(x\pm y)=\dfrac{\tan x\pm \tan y}{1\mp\tan x\tan y}$$
(別)証明 $$\begin{align} &\cos(x\pm y)+i\sin(x\pm y) \underset{オイラーの公式}{=}e^{i(x\pm y)} =e^{ix+iy} \underset{指数法則}{=}e^{ix}e^{i(\pm y)}\\ &\underset{オイラーの公式}{=}(\cos x+i\sin x)(\cos y\pm i\sin y) =(\cos x\cos y\mp\sin x\sin y)+i(\sin x\cos y\pm\cos x\sin y) \end{align}$$ である. また, $\tan(x\pm y)$の公式は, $$ \tan(x\pm y) =\dfrac{\sin(x\pm y)}{\cos(x\pm y)} \underset{加法定理}{=}\dfrac{\sin x\cos y\pm\cos x\sin y}{\cos x\cos y\mp\sin x\sin y} =\dfrac{(\sin x\cos y\pm\cos x\sin y)\cdot \dfrac{1}{\cos x\cos y}}{(\cos x\cos y\mp\sin x\sin y)\cdot \dfrac{1}{\cos x\cos y}} =\dfrac{\tan x\pm\tan y}{1\mp\tan x\tan y} $$ と得られる.
例
$(\cos 75^\circ+i\sin 75^\circ)=(\cos 45^\circ+i\sin 45^\circ)(\cos 30^\circ+i\sin 30^\circ)
=\left(\dfrac{1}{\sqrt{2}}+i\dfrac{1}{\sqrt{2}}\right)\left(\dfrac{\sqrt{3}}{2}+i\dfrac{1}{2}\right)=\dfrac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{4}+i\dfrac{\sqrt{6}+\sqrt{2}}{4}$
$\left(\cos\left(x\pm \dfrac{\pi}{2}\right)+i\sin\left(x\pm \dfrac{\pi}{2}\right)\right)
=\left(\cos x+i\sin x\right)\left(\cos\left(\pm\dfrac{\pi}{2}\right)+i\sin\left(\pm \dfrac{\pi}{2}\right)\right)
=\left(\cos x+i\sin x\right)\left(0\pm i\right)
=\mp\sin x+i(\pm\cos x)
$
$\left(\cos\left(x\pm \pi\right)+i\sin\left(x\pm \pi\right)\right)
=\left(\cos x+i\sin x\right)\left(\cos\left(\pm\pi\right)+i\sin\left(\pm \pi\right)\right)
=\left(\cos x+i\sin x\right)\left(-1+i\cdot 0\right)
=-\cos x+i(-\sin x)
$
系 $$\begin{align} \sin x\cos y&=\dfrac{1}{2}(\sin(x+y)+\sin(x-y))\\ \sin x\sin y&=-\dfrac{1}{2}(\cos(x+y)-\cos(x-y))\\ \cos x\cos y&=\dfrac{1}{2}(\cos(x+y)+\cos(x-y)) \end{align}$$
証明 $\sin(x\pm y)$についての加法定理から $$\begin{cases} \sin x\cos y+\cos x\sin y=\sin(x+y)\\ \sin x\cos y-\cos x\sin y=\sin(x-y) \end{cases}$$ であるが, これを連立させて$\sin x\cos y$について解けば, 第1の公式が得られる. 同様に, $\cos(x\pm y)$についての加法定理から $$\begin{cases} \cos x\cos y-\sin x\sin y=\cos(x+y)\\ \cos x\cos y+\sin x\sin y=\cos(x-y) \end{cases}$$ であるが, これを連立させて$\sin x\sin y$や$\cos x\cos y$について解けば, 第2,第3の公式が得られる.
定理
$\cos(2x)=\cos^2x-\sin^2x=2\cos^2-1=1-2\sin^2x,\qquad \sin(2x)=2\sin x\cos x$
証明 $$\begin{align} \cos(2x)+i\sin(2x) &=\cos(x+x)+i\sin(x+x) \underset{加法定理}{=}(\cos x+i\sin x)(\cos x+i\sin x) =(\cos x+i\sin x)^2 \\ &=(\cos^2 x-\sin^2 x)+i(2\sin x\cos x) \end{align}$$ よって, $$\cos(2x)=\cos^2 x-\sin^2 x,\qquad\sin(2x)=2\sin x\cos x$$ である. $\sin^2 x+\cos^2 x=1$の式を使えば, $$\cos(2x)=\cos^2x-\sin^2x=2\cos^2-1=1-2\sin^2x$$ がわかる.
定理 $\cos^2\dfrac{x}{2}=\dfrac{1+\cos x}{2},\qquad\sin^2\dfrac{x}{2}=\dfrac{1-\cos x}{2}$
証明 $$\begin{cases} \cos^2\left(\dfrac{x}{2}\right)+\sin^2\left(\dfrac{x}{2}\right)=1\\ \cos^2\left(\dfrac{x}{2}\right)-\sin^2\left(\dfrac{x}{2}\right)\underset{倍角の公式}{=}\cos x \end{cases}$$ であるが, これらを連立して$\cos^2\left(\dfrac{x}{2}\right),\sin^2\left(\dfrac{x}{2}\right)$について解けば, 公式が導かれる.
例 $\sin\dfrac{\pi}{8}$を求める. 半角の公式から $$\sin^2\dfrac{\pi}{8}=\dfrac{1-\cos\dfrac{\pi}{4}}{2} =\dfrac{1-\dfrac{\sqrt{2}}{2}}{2} =\dfrac{2-\sqrt{2}}{4}$$ が得られる. 故に, $$\sin\dfrac{\pi}{8} =\pm\sqrt{\dfrac{2-\sqrt{2}}{4}}$$ であるが, $\dfrac{\pi}{8}$は鋭角なので, $$\sin\dfrac{\pi}{8} =\sqrt{\dfrac{2-\sqrt{2}}{4}}$$ となる.
定理 $a\sin x+b\cos x$に対し, $$a\sin x+b\cos x=\sqrt{a^2+b^2}\sin(x+\alpha)$$ を満たす$\alpha$が存在し, $$\cos\alpha=\dfrac{a}{\sqrt{a^2+b^2}},\qquad \sin\alpha=\dfrac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}$$ が成り立つ.
証明 単位円周上に座標 $$\left(\dfrac{a}{\sqrt{a^2+b^2}},\dfrac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}\right)$$ を持つ点$P$が存在するので, この点での角度を$\alpha$とすれば, $$\cos\alpha=\dfrac{a}{\sqrt{a^2+b^2}},\qquad \sin\alpha=\dfrac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}$$ である. また, $$\sqrt{a^2+b^2}\sin(x+\alpha) \underset{加法定理}{=}\sqrt{a^2+b^2}(\sin x\cos \alpha+\cos x\sin \alpha) =\sqrt{a^2+b^2}\left(\sin x\cdot \dfrac{a}{\sqrt{a^2+b^2}}+\cos x\cdot \dfrac{b}{\sqrt{a^2+b^2}}\right) =a\sin x+b\cos x $$ となる.
例 $2\sin x+2\cos x$を$r\sin(x+\alpha)$の形に変形しよう. $r=\sqrt{2^2+2^2}=\sqrt{8}=2\sqrt{2}$であり, 座標 $$\left(\dfrac{2}{2\sqrt{2}},\dfrac{2}{2\sqrt{2}}\right)=\left(\dfrac{1}{\sqrt{2}},\dfrac{1}{\sqrt{2}}\right)$$ を持つ単位演習上の点Pは角度$\dfrac{\pi}{4}$の位置にあるから, $$2\sin x+2\cos x=2\sqrt{2}\sin\left(x+\dfrac{\pi}{4}\right)$$