日大工 総合教育 樋口幸治郎
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今回の主な内容は, 不定積分が微分の逆であることを説明し, 計算の練習を行うことである(教科書p11-12,p114-117). その前に, 講義の案内, 概要を説明し, また, これから講義で学ぶ積分学について話す.
問: 積分学は如何に発展されるか?
解: 指数関数$a^x$についての法則である指数法則が, その逆の対数関数$\log_a x$についての対数法則を導くように,
問: 積分は何の役に立つか?
解: 自然界の色々な現象が微分方程式を用いて表すことができる.
ところで, 2次関数$x^2$を含む2次方程式$ax^2+bx+c=0$が, その逆の平方根$\sqrt{x}$を用いて解くことができるように,
積分学は微分学を用いて発展されるのであるから, 微分を復習しておく必要がある.
微分の逆が積分, 正確には, 不定積分である.
定義
不定積分の例. $$\int xdx=「微分するとxとなる関数」=\dfrac{1}{2}x^2$$ $$\int x^2dx=「微分するとx^2となる関数」=\dfrac{1}{3}x^3$$
全ての関数が微分できるわけではないように, 全ての関数が不定積分できるわけではない.
定義 不定積分できる, つまり, 原始関数を持つ関数は積分可能と呼ばれる.
事実 連続関数は積分可能である.
微分は一つに定まるが, 実は積分は一つに定まらない. つまり, (積分可能なとき)原始関数は沢山ある.
例. $\dfrac{1}{2}x^2$も$\dfrac{1}{2}x^2+1$も微分すると$x$であるから, $$\int xdx=「微分するとxとなる関数」=\dfrac{1}{2}x^2$$ であり, また, $$\int xdx=「微分するとxとなる関数」=\dfrac{1}{2}x^2+1$$ でもある.
定義
複数の解を持つ問題について,
一つの解を特殊解,
全ての解を表したものを一般解という.
これらの言葉は, 普通, 微分方程式を解くという問題について使われる.
「不定積分$\displaystyle\int f(x)dx$を求める」という問題の一般解について考える. 実は, $$一般解 = 特殊解 + 任意定数C$$ となることが分かる. これを示そう.
定理 $F(x)$を特殊解, つまり, $f(x)$の原始関数であるとする. このとき, 関数$G(x)$について,
証明. まず, $$H^\prime(x)=0\qquad\iff\qquad H(x)=C\quad ({}^\exists Cは定数)\tag{*}$$ となることを思い出そう(教科書p89の[IV](iii)). 従って, $$\begin{align} & G^\prime(x)もf(x)の原始関数 \\ \underset{F^\prime(x)はf(x)の原始関数}{\iff} & G^\prime(x)-F^\prime(x)=0 \\ \underset{微分の線形性}{\iff} & \left(G(x)-F(x)\right)^\prime=0 \\ \underset{(*)より}{\iff} & G(x)-F(x)=C \quad({}^\exists定数C) \\ \underset{移行}{\iff} & G(x)=F(x)+C\quad({}^\exists定数C) \end{align}$$
定義 先の定理の任意の定数$C$を積分定数という.
不定積分に関する議論を行う際, 一般解 $$\int f(x)dx=F(x)+C\quad(Cは積分定数)$$ を用いた方が良い場面(例えば微分方程式を解く場面)と, 特殊解 $$\int f(x)dx=F(x)$$ を使うだけで十分な場面(例えば不定積分の公式を述べる場面)とがある. 初学のうちは, 不定積分の解が複数あることをはっきり意識するためにも, できるだけ積分定数を含む一般解を用いた方が良いだろう.
例えば, $$\int xdx+\int x^2dx=\dfrac{1}{2}x^2+C_1+\dfrac{1}{3}x^3+C_2\qquad(C_1,C_2は積分定数)$$ であるが, 積分定数$C_1,C_2$とは任意の定数のことであるから, 結局, 任意の定数$C=C_1+C_2$とひとまとめにできて, $$\int xdx+\int x^2dx=\dfrac{1}{2}x^2+\dfrac{1}{3}x^3+C\qquad(Cは積分定数)$$ と書き表せる. このように,
不定積分の一般解が $$ \int f(x)dx=「微分がf(x)となる関数」+C\quad(Cは任意の定数) $$ であることを使って, 以下の問題を解いてみよう.
言うまでもなく, 検算とは,
数学では多くの場合, 問題を解くことに比べ, 検算の労力は少ない. 幸いにして, 不定積分の検算も同様である. 不定積分の答えとは $$\int f(x)dx=「微分するとf(x)となる関数」(+ 積分定数)$$ であるから, 不定積分$\displaystyle\int f(x)dx$の検算は, $$答えの微分 = 被積分関数f(x)$$ を確かめることである.
検算の例. 教科書p123の例題3(2)では, $$\int tanxdx=-\log|\cos x|$$ が示されている. この答えを検算してみよう. $$\begin{align} &答えの微分\\ =&\left(-\log|\cos x|\right)^\prime\\ \underset{微分の線形性}{=}&-\left(\log|\cos x|\right)^\prime\\ \underset{合成の微分}{=}&-\dfrac{1}{\cos x}\cdot(\cos x)^\prime\\ =&-\dfrac{1}{\cos x}\cdot(-\sin x)\\ =&\dfrac{\sin x}{\cos x}\\ \underset{三角関数の公式}{=}&\tan x\\ =&被積分関数\\ \end{align}$$ となって, 答えの正しさが検証された.
小さな計算ミスが大いなる人災に繋がり得る工学において, 検算の習慣は非常に重要である.
検算の練習をしてみよう.
1. 不定積分$\quad\overset{逆}{\iff}\quad$微分
2. 連続関数は積分可能
3. 不定積分の一般解(全ての解) = 特殊解(一つの解) + 積分定数
4. 複数の積分定数は1つにしてよい.
5. 不定積分の検算 = 答えの微分が被積分関数
数学では, 一般に, あるモノの逆を考えると, 元のモノの性質を逆のモノの性質に「輸入」できる. 微分とその逆の不定積分についてもこれが成り立つ. つまり,
p12の問1を解きなさい.