日大工 総合教育 樋口幸治郎
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多変数の確率を考える(教科書p127-135).
科学哲学者のカール・ポパー(Karl Popper, 1902-1994)は,
In so far as a scientific statement speaks about reality, it must be falsifiableと述べた. 反証可能な科学的知識の典型例は, 再現可能な実験の結果から得られる知識である. 知識の信頼性を高めるために, 普通, 同じ実験(=試行)は繰り返し行われる.
(現実について語る限り, 科学的知識は反証可能でなければならない)
再現可能な試行を複数回行うとき, $X_n$を第$n$回の試行結果の確率変数とすれば, 確率変数$X_1,X_2,X_3,\cdots$は, 前の結果に依存せず, しかも, 同じ確率分布に従う, と考えることができる(この条件は独立同分布(i.i.d., independent identical distribution)に従うと言われる). 以下, 上記のような再現可能な試行を複数回行うときの確率変数$X_1,X_2,X_3,\cdots$についての基本用語や性質を学ぶ.
定義 幾つかの確率変数$X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n$の組 $$(X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n)$$ の取る値$(x_1,x_2,x_3,\cdots,x_n)$について, 確率 $$P_{X_1X_2\cdots X_n}(x_1,x_2,\cdots,x_n)=P(X_1=x_1,X_2=x_2,\cdots,X_n=x_n)$$ を考えることができる. この確率$P_{X_1X_2\cdots X_n}(x_1,x_2,\cdots,x_n)$を(n次元)同時確率といい, $(X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n)$をその確率変数として, (n次元)同時確率変数という.
定義 幾つかの確率変数$X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n$が同一の確率分布$f(x)$に従うとき, 確率変数$X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n$は同分布に従うという. さらに, 同時確率変数$(X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n)$の確率分布$g(x_1,x_2,x_3,\cdots,x_n)$が, $$g(x_1,x_2,x_3,\cdots,x_n)=f(x_1)f(x_2)f(x_3)\cdots f(x_n)$$ で与えられるとき, 確率変数$X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n$は独立同分布に従うという.
定理 独立同分布に従う確率変数$X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n$について, $$\bar{X}=\dfrac{X_1+X_2+\cdots+X_n}{n}$$ とおき, $\mu,\sigma^2$を$X_1,X_2,\cdots$たちの平均, 分散とする. このとき, $$E(\bar{X})=\mu,\qquad V(\bar{X})=\dfrac{\sigma^2}{n}$$ が成り立つ. また, $$E(X_i-\bar{X})=0,\qquad V(X_i-\bar{X})=\dfrac{n-1}{n}\sigma^2\quad(i=1,2,\cdots,n)$$ が成り立つ.
定理 独立同分布に従う確率変数$X_1,X_2,X_3,\cdots,X_n,\cdots$について, $$\bar{X}=\dfrac{X_1+X_2+\cdots+X_n}{n}$$ とおき, $\mu$を$X_1,X_2,\cdots$たちの平均とする. このとき, $$\lim_{n\to\infty}P(|\bar{X}-\mu|<\varepsilon)=1$$ が成り立つ.