日大工 総合教育 樋口幸治郎
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微分方程式 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
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今回の主な内容は, 線形微分方程式についての用語と, 同次型・非同次型の解の関係を学ぶことである (教科書p40-53の範囲). その前に, 身近に現れる微分方程式の例として生物増加の話をする.
至極単純に考えて, ある生物の出生数や死亡数は, そのときの生物の総数$N$に比例するであろう. 従って, ある時点の生物の総数の変化率$\dfrac{dN}{dt}$は, その時点での生物の総数$N$に比例するという, 数学のモデルを与えることができる. 比例定数を$\alpha$とすれば, $$\dfrac{dN}{dt}=\alpha N\tag{*}$$ が成り立つということになる. 微分方程式(*)を解けば, 将来の生物の増え具合を予測することできる.
(*)は変数分離形なので, 解くことができる. 変数分離すれば $$\dfrac{1}{N}dN=\alpha dt$$ 積分して $$\log|N|=\alpha t+C_1\qquad(C_1は任意定数)$$ 変形して $$N=Ce^{\alpha t}\qquad(Cは任意定数)$$ という一般解を得る. 条件「時点$t_0$で総数$N_0$」が分かっていれば, $$N=\dfrac{N_0}{e^{\alpha t_0}}\cdot e^{\alpha t}$$ という解が得られる. だから生物の総数は指数関数的に増えて行く.
実際は上の解ほど, 世の中は単純ではない. ある生物が増えると, その生物の食料が減り, その生物の捕食者が増えるなどといった要因で, ある程度長い目で見ると, 出生数や死亡数による比例計数$\alpha$が定数でないのである.
ところで, 私は, 学び始めの段階では, 知識の総数$N$の変化率$\dfrac{dN}{dt}$もまた, そのときの知識量$N$に比例していると感じている. だから一定の努力を続ければ, ある定数$\alpha$について(*)の式が成り立ち, 従って, 知識量は指数関数的に増加すると思うのであるが, 皆さんはどう思うだろうか?
一つ文献を紹介しておく.
定義 $$y^{(n)}+f_1(x)y^{(n-1)}+\cdots+f_{n-1}y^\prime+f_n(x)y=g(x)$$ という形の微分方程式を$n$階線形微分方程式という. これは2種類(同次型・非同次型)に分かれる. $$線形微分方程式 \begin{cases} 同次方程式 & g(x)\equiv 0のとき\\ 非同次方程式 & g(x)\not\equiv 0のとき \end{cases}$$
定理 $$非同次式\qquad y^{(n)}+f_1(x)y^{(n-1)}+\cdots+f_{n-1}y^\prime+f_n(x)y=g(x)\tag{1}$$ $$同次式\qquad y^{(n)}+f_1(x)y^{(n-1)}+\cdots+f_{n-1}y^\prime+f_n(x)y=0\tag{2}$$ について, $$非同次式(1)の一般解\quad=\quad非同次式(1)の特殊解y_p\quad+\quad同次式(2)の一般解y_h$$
証明概略.
$s(x)$を非同次式(1)の特殊解とする.
このとき, 任意の$t(x)$について
$$t(x)が(1)の解\qquad\iff\qquad t(x)-s(x)が(2)の解\tag{*}$$
であることが言えれば, 定理が成り立つには十分である.
まず,
$$t(x)が(1)の解$$
であると仮定する.
$t(x)-s(x)$が(2)の解であることを解の検算(左辺に代入し右辺に変形する)で確かめよう.
(2)の左辺に代入すると,
$$\begin{align}
&(t(x)-s(x))^{(n)}+f_1(x)(t(x)-s(x))^{(n-1)}+\cdots+f_{n-1}(t(x)-s(x))^\prime+f_n(x)(t(x)-s(x))\\
\underset{微分の線形性}{=}&t^{(n)}(x)-s^{(n)}(x)+f_1(x)(t^{(n-1)}(x)-s^{(n-1)}(x))+\cdots+f_{n-1}(t^\prime(x)-s^\prime(x))+f_n(x)(t(x)-s(x))\\
\underset{並び替え}{=}&\Big(t^{(n)}(x)+f_1(x)t^{(n-1)}(x)+\cdots+f_{n-1}t^\prime(x)+f_n(x)t(x)\Big)-\Big(s^{(n)}(x)+f_1(x)s^{(n-1)}(x)+\cdots+f_{n-1}s^\prime(x)+f_n(x)s(x)\Big)\\
\underset{s,tは(1)の解}{=}&g(x)-g(x)\\
=&0
\end{align}$$
となり, $t(x)-s(x)$が(2)の解であることが分かった.
次に,
$$t(x)-s(x)が(2)の解$$
であると仮定する.
$t(x)$が(1)の解であることをやはり検算で確かめよう.
(2)の解$t(x)-s(x)$を$u(x)$と置けば,
$t(x)=s(x)+u(x)$である.
(1)の左辺に代入すると,
$$\begin{align}
&(s(x)+u(x))^{(n)}+f_1(x)(s(x)+u(x))^{(n-1)}+\cdots+f_{n-1}(s(x)+u(x))^\prime+f_n(x)(s(x)+u(x))\\
\underset{微分の線形性}{=}&s^{(n)}(x)+u^{(n)}(x)+f_1(x)(s^{(n-1)}(x)+u^{(n-1)}(x))+\cdots+f_{n-1}(s^\prime(x)+u^\prime(x))+f_n(x)(s(x)+u(x))\\
\underset{並び替え}{=}&\Big(s^{(n)}(x)+f_1(x)s^{(n-1)}(x)+\cdots+f_{n-1}s^\prime(x)+f_n(x)s(x)\Big)+\Big(u^{(n)}(x)+f_1(x)u^{(n-1)}(x)+\cdots+f_{n-1}u^\prime(x)+f_n(x)u(x)\Big)\\
\underset{s,uは(1),(2)の解}{=}&g(x)+0\\
=&g(x)
\end{align}$$
先の定理から, 線形微分方程式の一般解を求めるためには,
同次型の1階線形微分方程式 $$y^\prime+f(x)y=0$$ は変数分離形 $$\dfrac{1}{y}dy=-f(x)dx$$ である. だから, 既に解法はわかっている.
非同次型の1階線形微分方程式 $$y^\prime+f(x)y=g(x)\tag{1}$$ に対し, 同次型 $$y^\prime+f(x)y=0\tag{2}$$ を考えると, 先の定理より, $$(1)の一般解y\quad =\quad (1)の特殊解y_p \quad +\quad (2)の一般解y_h$$ であった. (2)の一般解の解法は分かっているので, あとは, (1)の特殊解さえ求められれば, (1)の一般解が求まる.
(1)の特殊解の見つけ方を3つの方法を紹介する:
1. 場当たり的に見つける
2. 定数変化法で求める
3. (複雑な)公式を覚える(教科書p42)
以下では, 場当たり的に非同次型方程式の特殊解を求め, それを用いて一般解を求める.
非同次方程式$y^\prime+y=x$の一般解を求めなさい. さらに, 初期条件$y(0)=1$を満たす初期値問題の解を求めなさい.
答.
まず, 同次型の一般解$y_h$を求めると
$$\begin{align}
&y^\prime+y=0\\
\underset{等式変形}{\Longrightarrow}&\dfrac{1}{y}y^\prime=-1\\
\underset{等式変形}{\Longrightarrow}&\dfrac{1}{y}dy=-dx\\
\underset{積分}{\Longrightarrow}&\log|y|=-x+C_1\quad(C_1は任意定数)\\
\underset{変形}{\Longrightarrow}&y=\pm\exp(-x+C_1)\quad(C_1は任意定数)\\
\underset{変形}{\Longrightarrow}&y=C\exp(-x)\quad(Cは任意定数)\\
\end{align}$$
であるから, 同次型の一般解は$y_h=C\exp(-x)$である.
次に, 非同次型
$$y^\prime+y=x$$
の特殊解$y_p$を(一つ)見つけよう.
右辺が$x$という多項式なので, 多項式
$$y=ax+b$$
という形の特殊解が予想される.
左辺の$y^\prime$,$y$に代入すると,
$$ax+(a+b)=x$$
なので, $a=1$, $b=-1$のとき, 方程式が成り立つことが分かる.
つまり,
$$y_p=x-1$$
は非同次型の特殊解である.
非同次型の一般解は, 同次型の一般解$y_h$と非同次型の特殊解$y_p$との和であるから,
$$y=C\exp(-x)+x-1$$
が非同次型の一般解である.
最後に, 初期条件$y(0)=1$を満たす初期値問題の解を求める.
条件から
$$1=C\exp(0)+0-1$$
であるから, $C=2$が求まる.
故に,
$$y=2\exp(-x)+x-1$$
が初期値問題の解である.
非同次方程式$xy^\prime+y=2x$の一般解を求めなさい. さらに, 初期条件$y(1)=2$を満たす初期値問題の解を求めなさい.
答.
まず, 同次型の一般解$y_h$を求めると
$$\begin{align}
&xy^\prime+y=0\\
\underset{等式変形}{\Longrightarrow}&\dfrac{1}{y}y^\prime=-\dfrac{1}{x}\\
\underset{等式変形}{\Longrightarrow}&\dfrac{1}{y}dy=-\dfrac{1}{x}dx\\
\underset{積分}{\Longrightarrow}&\log|y|=-\log|x|+C_1\quad(C_1は任意定数)\\
\underset{積分}{\Longrightarrow}&\log|xy|=C_1\quad(C_1は任意定数)\\
\underset{変形}{\Longrightarrow}&xy=\pm\exp(C_1)\quad(C_1は任意定数)\\
\underset{変形}{\Longrightarrow}&y=\dfrac{C}{x}\quad(Cは任意定数)\\
\end{align}$$
であるから, 同次型の一般解は$y_h=\dfrac{C}{x}$である.
次に, 非同次型
$$xy^\prime+y=2x$$
の特殊解$y_p$を一つ見つけよう.
右辺が$2x$という多項式なので, 多項式
$$y=ax+b$$
という形の特殊解が予想される.
左辺の$y^\prime$,$y$に代入すると,
$$2ax+b=2x$$
なので, $a=1$, $b=0$のとき, 方程式が成り立つことが分かる.
つまり,
$$y_p$=x$$
は非同次型の特殊解である.
非同次型の一般解$y$は, 同次型の一般解$y_h$と非同次型の特殊解$y_p$との和であるから,
$$y=\dfrac{C}{x}+x$$
が非同次型の一般解である.
最後に, 初期条件$y(1)=2$を満たす初期値問題の解を求める.
条件から
$$2=C+1$$
であるから, $C=1$が求まる.
故に,
$$y=\dfrac{1}{x}+x$$
が初期値問題の解である.
1. 非同次型の一般解$y$ = 非同次型の特殊解$y_p$ + 同次型の一般解$y_h$
2. 1階同次方程式は変数分離形である.
3. 1階非同次方程式の特殊解の見つけ方は幾つか方法がある.
次回は1階非同次方程式の特殊解を確実に見つけることができる定数変化法と, それから導かれる公式を学ぶ.
教科書p47の練習問題18(1)を解きなさい. (非同次方程式の特殊解が$y=ax^3$の形であると予想する.)